ヒスイです。
アリババで工場を見つけて、サンプルを取り寄せた。品質も悪くない。「よし、これでいこう」と決めて、ブランド名を考えた。パッケージのデザインも外注に出して、Amazonの商品ページの下書きも始めた。
──このあたりで、ふと不安になったことはないでしょうか。
「このブランド名、もう誰かに取られていたらどうしよう」
もし取られていたら、何が起きるか。パッケージは刷り直し。ロゴデザインもやり直し。Amazonの商品ページもゼロから作り直し。FBA納品した在庫があれば、返送か廃棄の判断も迫られます。さらに、すでにそのブランド名で販売を始めていた場合、商標権者から使用停止を求められたり、Amazonから出品を強制的に止められたりすることもあります。
この記事は、中国OEMで初めて自分のブランド商品を出そうとしている方に向けて、「ブランド名を決めたら、パッケージ発注の前にやっておくべきこと」を一つずつ説明するものです。
パッケージを発注してから気づいても遅い理由
ブランド名は「早い者勝ち」で決まる
日本の商標制度は、原則として「先願主義」です。つまり、同一・類似の商標について同一・類似の商品・役務を指定した出願が複数ある場合は、先に出願した人が優先されます(商標法8条)。
また、商標法第4条第1項第11号により、先に登録された他人の商標と同一・類似の商標は、同一・類似の商品・役務については原則として登録できません。
「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」
出典:商標法第4条第1項第11号(e-Gov法令検索)
つまり、「良い名前を思いついたから使う」では足りません。その名前が使えるかどうかは、他の誰かがすでに出願・登録していないかによって決まります。
中国輸入OEMの場合、パッケージの印刷を中国の工場に発注してから届くまでに2〜4週間。そこからFBA納品の準備をして、いざ販売開始──というタイミングで「その名前は他社の登録商標です」と分かっても、すでにお金と時間を使った後です。
ブランド名を決めたら、パッケージを発注する前に、その名前が使えるかどうかを調べ、問題なければ出願しておく。
出願しても、すぐには登録されない
商標は出願すればすぐに登録されるわけではありません。特許庁では、まず審査着手まで数か月の待ち時間があります。さらに、その後の審査や手続もあるため、出願から登録完了までには一般に相応の期間がかかります。
ただし、ここで重要なのは先後関係が原則として出願日で決まるということです。登録まで待つ必要はなく、出願日が確定すれば、それ以降に同じ名前を出願した人よりもあなたが優先されます。この先願権を確保するためにも、できるだけ早く出願しておくことに意味があります。
出願の前にやること──J-PlatPatで「先行調査」をする
出願には特許庁手数料がかかります。そして、審査の結果、すでに似た商標が登録されていて拒絶された場合でも、納付した出願料は戻ってきません。特許庁も明確にこう案内しています。
「審査の結果、登録が認められなかったとしても返金されません。」
出典:特許庁「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」(特許庁)
だから、出願する前に「似た名前がすでに登録されていないか」を調べることが欠かせません。これを「先行商標調査」と言います。
調べ方(自分でできる範囲)
INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)が提供する「J-PlatPat」(特許情報プラットフォーム)を使います。無料です。
上部メニューから「商標」→「商標検索」を選びます。
「商標(検索用)」の欄に、使いたいブランド名を入力します。
自分の商品に関係する「区分」(後述)も指定して検索します。なお、商標の権利範囲は区分だけで決まるわけではなく、出願書類に記載する「指定商品・指定役務」によって具体的に定まります。
検索結果に表示された商標を確認します。完全一致だけでなく、読み方(称呼)が同じ商標にも注意してください。
完全一致だけではなく「似ている」商標も問題になります。たとえば「SORAIRO」と「ソライロ」は文字の種類が違いますが、読み方(称呼)が同じであれば「類似」と判断される可能性があります。
自分で検索してみて「ヒットしなかったから大丈夫」と安心するのは早計です。検索の仕方によっては漏れが出ます。名前の候補が決まったら、知財の専門家に調査を依頼するのが確実です。調査だけなら無料で対応している事務所もあります。
区分の選び方──よくある「もったいない間違い」
商標出願では「この名前を、どんな商品に使うか」を指定する必要があります。商品の分野は第1類から第45類まで分かれていて、これを「区分」と呼びます。
中国OEMで物販をしている方が出願でよく使う区分の例を挙げます。
| 区分 | 対象商品の例 |
|---|---|
| 第3類 | 化粧品、せっけん、歯磨き |
| 第5類 | サプリメント、衛生用品 |
| 第9類 | スマホケース、モバイルバッテリー等の電子機器付属品 |
| 第11類 | 照明器具、加湿器 |
| 第18類 | かばん、財布 |
| 第21類 | 台所用品、弁当箱、水筒 |
| 第25類 | Tシャツ、帽子、靴 |
| 第28類 | おもちゃ、トレーニング用具 |
ここで起きがちな間違いが2つあります。
区分を1つ増やすごとに手数料が増えます。「念のため5区分で」と広げると、出願料だけで46,400円。「まず売る商品が属する区分だけ」で始めるのが現実的です。
自分の商品がどの区分に属するのか、判断を誤ると権利が及ばない範囲で登録してしまいます。たとえば「ペット用の服」は第25類(人間の被服)ではなく通常第18類に分類されます。区分の選定は専門的な判断が必要な部分です。
費用はいくらかかるのか
特許庁に支払う特許庁手数料
特許庁の料金は法令で決まっています。
| タイミング | 金額 |
|---|---|
| 出願時 | 3,400円 +(8,600円 × 区分数) |
| 登録時(10年一括) | 32,900円 × 区分数 |
「出願料:3,400円+(8,600円×区分数) 登録料:32,900円×区分数」
出典:特許庁「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」(特許庁)
1区分で出願して10年一括で登録する場合、特許庁手数料の合計は44,900円です。
5年分ずつ分けて支払う「分納」も選べます(登録料が17,200円 × 区分数)。ただし、5年後にもう一度同額を支払うため、10年間で見ると一括のほうが安くなります。
専門家に頼む場合の報酬
知財の専門家に出願から登録までを依頼する場合、手数料に加えて報酬が発生します。事務所によって幅がありますが、1区分あたりの出願〜登録の総報酬は数万〜十数万円程度が一つの目安です。
「まだ売れるか分からない商品に十数万円は高い」と感じるかもしれません。ただ、パッケージの刷り直しやFBA在庫の返送・廃棄にかかる費用と比べると、先に出願しておくほうが合理的な投資である場合が多いです。
商標を取ると、Amazon販売で何が変わるか
Amazonブランド登録ができるようになる
Amazonで自社ブランド商品を販売するとき、「Amazonブランド登録」(Brand Registry)に登録すると、次のようなメリットがあります。
- 商品ページのブランド情報や掲載内容について、ブランドオーナーとして保護・管理を受けやすくなる
- スポンサーブランド広告など、ブランド登録者だけが使える広告枠を利用できる
- Amazon内にブランド専用のストアページを作成できる
- 相乗り出品者に対する権利侵害の申し立てがしやすくなる
Amazonブランド登録では、原則として有効な登録商標、または係属中の商標出願が求められます。申請時には、商標登録番号または、出願が係属中であれば出願番号の提出が必要です。ただし、国ごとの要件やAmazon側の審査運用によって扱いが異なる場合があるため、最新のBrand Registryの要件ページも確認してください。
商品の販売開始と同時にブランド登録のメリットを享受するには、やはり早めの出願が鍵になります。
偽造品・無断使用出品への対抗手段になる
OEM商品がAmazonで売れ始めると、同じ商品ページに他の出品者が乗ってくる「相乗り出品」や、似たような商品を別ブランドとして出してくる模倣品の問題が出てきます。
商標権を持っていれば、Amazonの権利侵害申告フォームなどを通じて、偽造品やブランド表示を無断使用した出品に対応しやすくなります。ただし、真正品の再販売まで一律に排除できるわけではありません。
税関での水際差止ができる
商標権を持っていれば、税関に「輸入差止申立」をして、模倣品が日本に入ってくるのを止めてもらう仕組みも利用できます。財務省のデータでは、令和6年(2024年)の知的財産侵害物品の輸入差止件数は過去最多の33,019件。仕出国別では中国が全体の80.6%を占めています。
「輸入差止件数は33,019件で、前年と比べて4.3%増加し、公表を開始した昭和62年以来、過去最多を更新しました。」
出典:財務省「令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」(財務省)
これは、中国から輸入する商品を扱う事業者にとって、決して他人事ではない数字です。
ブランド名を決めるときの注意点
ここまで「先行調査→出願」の話をしてきましたが、そもそもブランド名の選び方にも気をつけるべき点があります。
商標法第3条は、識別力(=他の商品と区別できる力)がない商標は登録できないと定めています。具体的に登録が難しい名前の例を挙げます。
- 商品の品質や特徴をそのまま表す名前:商品「まくら」に対して「快眠」「ぐっすり」など
- 産地・販売地をそのまま表す名前:「東京」「京都」「JAPAN」など
- ありふれた名前:「田中商店」「TAKAHASHI」など
逆に、登録されやすいのは造語や、商品とは直接関係のない言葉の組み合わせです。たとえば、りんごジュースなどに「Apple」と付けても、商品の原材料や内容を示すにすぎないとして識別力が弱い場合があります。一方、コンピュータに「Apple」と付ける場合は、商品との直接の関係が通常ないため、識別力が認められやすい、という考え方です。
ブランド名を考える段階で「この名前は商標として登録できそうか」を意識しておくと、あとで出願が拒絶されるリスクを減らせます。
やることリスト
ここまでの内容を、実際の行動順序で整理します。
造語や、商品と直接関係のない言葉の組み合わせがおすすめです。1案に絞らず候補を持っておくと、先行調査でNGが出たときにすぐ切り替えられます。
各候補について、自分の商品が属する区分で類似商標がないか確認します。自分で判断がつかない場合は、知財の専門家に調査を依頼してください。
先行調査で問題がなければ、出願手続に進みます。出願日が確定した時点で先願権が発生します。ここまでをパッケージ発注の前に済ませるのが理想です。
出願が済んだ段階で、ブランド名を入れたパッケージのデザイン確定と発注に入ります。
出願番号が手元に届いたら、Amazonブランド登録の申請を進められる場合があります。商品ページの準備と並行して進めてください。
この間に商品の仕入れ・販売準備・販売開始を並行して進めます。
その後、設定登録がされることで商標権が発生します。
まとめ
中国OEMで自社ブランドを立ち上げるとき、「先にパッケージを作ってから商標を考える」では順番が逆です。ブランド名を決めたら、パッケージの発注より前に、先行商標調査と出願を済ませてください。先願主義の仕組みの下では、出願の早さが権利の有無を分けます。
今日できることは一つ。J-PlatPatを開いて、自分が使いたいブランド名を検索してみてください。
出典一覧
- 商標法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
- 特許庁「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」:https://www.jpo.go.jp/system/basic/trademark/index.html
- 特許庁「商標審査着手状況(審査未着手案件)」:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/status/cyakusyu.html
- 特許庁「産業財産権関係料金一覧」:https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/hyou.html
- J-PlatPat(特許情報プラットフォーム):https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
- 財務省「令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」:https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2024/index.html