せっかく作ったコスメのブランド名、実は「独占しにくい名前」だった件

ヒスイです。

Canvaでロゴを仕上げて、Instagramのアカウント名もその名前で取って、BASEやShopifyでショップを開設。いよいよ自分だけの化粧品ブランドを立ち上げる──その高揚感、よく分かります。

ただ、その名前を確定させる前に、ひとつだけ確認してほしいことがあります。

そのブランド名、商標として登録しやすく、かつ他者の使用に対して実効的に守りやすい名前ですか。

「モイストセラム」「ピュアスキン」「ボタニカルローション」のように、商品の成分や効能をそのまま並べた名前は、商標登録が認められにくいだけでなく、仮に使い続けても法的に守りにくいことがあります。

逆に言えば、ネーミングの段階で「あと一手間」加えるだけで、その名前はブランドを長く守る資産になります。この記事では、その「一手間」の具体的なやり方を、実在の化粧品ブランドの事例とあわせてお伝えします。


目次

ブランド名を「自分だけのもの」に近づける4ステップ

最初に、手を動かすパートからいきます。考え方の背景は後半で詳しく説明しますので、「まず何をすればいいか知りたい」という方はここから読み進めてください。

ステップ1:ブランドの価値観を3つ書き出す

最初の一歩は、商品のスペックではなく、ブランドの「世界観」を言葉にすることです。

ここではまだ成分名(ヒアルロン酸、ビタミンC等)や効能(保湿、美白等)は使いません。「このブランドが大切にしていること」を、抽象的な言葉で3つだけ挙げます。

たとえば──

  • 「夜のリラックスタイム」
  • 「凛とした佇まい」
  • 「手仕事のぬくもり」

あるいは──

  • 「自分の内側にある力を信じる」
  • 「朝の光のような透明感」
  • 「旅先で出会う植物の記憶」

これがネーミングの「種」になります。


ステップ2:種を「ずらして」造語にする

ここが最も大切なステップです。書き出したキーワードをそのまま名前にしない。一段「ずらして」、辞書に載っていない新しい言葉をつくります。

なぜ「ずらす」必要があるのか。それは、商品の特徴をそのまま表す言葉は、原則として識別力が乏しいと判断されやすく、商標登録が認められにくいからです。

商標法第3条第1項第3号は、商品の「品質」「原材料」「効能」などを普通の方法で表しているだけの言葉は、商標登録を認めないと定めています。

「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格(中略)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」

出典:商標法第3条第1項第3号(e-Gov法令検索

つまり、「モイスト」+「セラム」では、消費者には商品説明として受け取られやすい。「ピュア」+「スキン」も、効能やイメージの説明にとどまると判断されやすい。こうした名前は、消費者に「あのブランドの商品だ」と認識させる力──識別力──が弱いと見られやすいわけです。

では、実際に成功している化粧品ブランドは、どうやって名前をつくっているのでしょうか。公式に由来が公表されているブランドを見てみます。

IPSA(イプサ) は、ラテン語で「自らの」「自発的な」「自分自身で」を意味する語から着想を得た造語です。公式サイトでは、「自分の内なる力を信じ、自分らしさを究めていきたい人を応援するブランドという意味が込められています」と説明されています。
──出典:IPSA公式サイト「ABOUT IPSA」

SUQQU(スック) は、日本語の「すっくと立つ」姿に由来するブランド名として知られています。凛と自立した美しさを表現するネーミングです。
──出典:SUQQU公式サイト「ABOUT SUQQU」同「もういちどはじめまして #03 しるし」

DECORTÉ(コスメデコルテ) は、フランス語の「cosmétique(化粧)」と「décoration(勲章)」を融合させた名称です。公式には、「誇りある美」を届けたいという願いが込められていると説明されています。
──出典:コスメデコルテ公式サイト「Our story ABOUT THE BRAND NAME」

ETVOS(エトヴォス) は、「人と人を繋ぐ」という意味を込めたオリジナルの造語です。
──出典:ETVOS公式サイト「ETVOSについて」

SOFINA(ソフィーナ) は、ギリシャ語で「叡智」「知」を意味する「ソフィア」にちなんで名づけられた造語です。
──出典:花王公式Q&A「SOFINA iP のブランド名の由来や意味」

これらのブランドに共通しているのは、商品の成分や効能の説明そのものには見えにくいということです。こうした名前は、少なくとも商品の品質や効能の説明にとどまりにくく、識別力を備えやすいタイプのネーミングだといえます。

ここで、改めて「弱い名前」と「強い名前」を並べてみます。

識別力が弱い方向(登録が難しいことがある)

「モイストセラム」「ピュアスキン」「ボタニカルクリーム」「ナチュラルハーブセラム」
──商品の成分・効能・用途をそのまま組み合わせた名前。消費者はこれを「保湿美容液なんだな」「植物由来のクリームなんだな」と商品説明として受け取りやすい。

識別力が強い方向(登録しやすい傾向がある)

「IPSA」「SUQQU」「DECORTÉ」「ETVOS」「SOFINA」
──辞書に載っていない造語、あるいは商品カテゴリとは直接結びつかない言葉。消費者にとって、単なる商品説明ではなく、出所を示す名称として受け取られやすい

では、自分のブランドではどう造語をつくればいいか。方法はいくつかあります。

方法A:異なる言語から音を借りる
ステップ1で書き出した「凛とした佇まい」というキーワードから、ラテン語やフランス語で近い響きを持つ単語を探し、その音を変形させて新しい一語をつくる。IPSAやSOFINAはこの発想に近い例です。

方法B:2つの言葉の一部を掛け合わせる
「relax」と「ritual」から音の一部を取って「Rerial」のような造語をつくる。DECORTÉやETVOSのように、元の意味を残しつつ新しい一語にする考え方です。

方法C:日本語の音から造語にする
SUQQUのように、日本語の音やニュアンスからアルファベット表記の造語へ変換する方法。日本語ならではの柔らかさや余韻を残しつつ、独自性を出せます。

方法D:音の響きから逆算する
5〜7文字で、濁音や破裂音(b、g、d等)を入れると力強く、母音(a、i、u等)で終わると柔らかい印象になります。ブランドの雰囲気に合う「音」を先に決めて、そこに意味を与えていく方法です。

いずれの方法でも、できあがった名前について第三者に「この名前を聞いて何を連想する?」と聞いてみることをおすすめします。家族や友人に尋ねて「保湿? 美容液?」と返ってきたら、まだ品質表示に寄りすぎているかもしれません。「何の意味か分からないけど、感じがいい」と言われたら、識別力のある方向に近づいているサインです。

補足

なお、商品の特徴を表す言葉であっても、長年の使用によって需要者の間で特定の事業者の商品として認識されるに至った場合には、例外的に登録が認められることがあります。もっとも、立ち上げ前の新ブランドではこの例外に頼るのは現実的ではないため、最初から識別力のある名前を考えるほうが安全です。


ステップ3:J-PlatPatで先行商標を確認する

造語ができたら、次に同じ名前や似た名前がすでに商標登録されていないかを調べます。これを怠ると、せっかくの造語が他社の権利と衝突してしまう可能性があります。

使うのは、特許庁関係の無料データベース「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」です。

STEP
J-PlatPatを開く

J-PlatPatにアクセスします。

STEP
「商標」メニューから検索画面へ進む

トップページの「商標」メニューから商標検索画面に進みます。

STEP
候補名そのものを入力して検索する

まずは考えたブランド名をそのまま入力して検索します。

STEP
読み方(称呼)や表記違いでも検索する

英字・カタカナ・ひらがなの表記違い、長音の有無、スペースや記号の有無など、複数のパターンで検索します。

STEP
第3類(化粧品を含む区分)を中心に確認する

「化粧品」では類似群コード04C01が参考になりますが、指定商品によって確認範囲は前後するため、04C01だけ見れば十分とは限りません

なぜこの確認が必要かというと、商標法には「先に登録した人がいたら、似た名前を同じ分野で後から登録することはできない」というルールがあるからです。

「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(中略)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」

出典:商標法第4条第1項第11号(e-Gov法令検索

つまり、造語であっても、偶然ほかの会社と被ってしまうことはありえます。名前を確定させる前にJ-PlatPatで検索するこの一手間が、のちのトラブルを防ぎます。

注意

J-PlatPatの検索はあくまで簡易調査です。実務では、文字の一致だけでなく、称呼(読み方)・観念(意味)・指定商品役務の類否まで見て判断します。


ステップ4:判断に迷ったら専門家に相談する

J-PlatPatは便利なツールですが、「似ているかどうか」の最終判断には専門知識が必要な場面があります。文字は違うけれど読み方(称呼)が同じ場合や、意味(観念)が近い場合にも「類似」と判断されることがあるためです。

以下のような場合は、知財の専門家(弁理士)への相談を検討してください。

  • 検索で似た商標が出てきたが、「類似」にあたるか自分では判断できない
  • 造語をつくったが、識別力があると認められるか不安がある
  • ブランド名を化粧品以外(アパレル、飲食など)にも展開する予定がある

なお、INPIT(工業所有権情報・研修館)が運営する「知財総合支援窓口」では、無料で相談を受けることができます。全国47都道府県に窓口があり、全国共通ナビダイヤルは0570-082100です。「まだ出願するかどうかも決まっていない」という段階でも相談可能です。


もう少し深く知りたい方へ:化粧品の名前が引っかかりやすい理由

ここからは、4ステップの背景にある仕組みをもう少し詳しく説明します。「なるほど、だからステップ2で造語にする必要があるのか」と納得していただけるはずです。

化粧品は、広告で使える効能表現の範囲が制度上ある程度定められている業界

化粧品のネーミングで品質・効能を想起させる表現が問題になりやすい背景には、広告で標榜できる効能表現の範囲が行政通知で整理されているという、この業界特有の事情があります。

厚生労働省は、化粧品の広告で使ってよい効能効果を56項目に整理しています。たとえば──

「(19) 肌を整える。」
「(24) 皮膚にうるおいを与える。」
「(25) 皮膚の水分、油分を補い保つ。」
「(28) 皮膚の乾燥を防ぐ。」
「(32) 肌を滑らかにする。」

出典:厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年7月21日 薬食発0721第1号)(厚生労働省

「うるおい」「キメ」「なめらか」「乾燥を防ぐ」。これらは化粧品業界で広く使われる説明語です。そしてその英語版が「モイスト」「スムース」「ハイドレーション」といった言葉。保湿系の化粧品を売りたい多くの事業者が、商品説明に使いたい言葉です。

こうした共通語を一人の事業者が独占してしまうと、他の事業者が自社商品の特徴を説明しにくくなる。だから商標法は、品質や効能をそのまま表す言葉の独占を認めにくくしています。特許庁の商標審査基準でも、次のように示されています。

「商標が、その指定商品又は指定役務に使用されたときに、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識する場合、本号に該当すると判断する。」

出典:特許庁「商標審査基準」第3条第1項第3号の解説(特許庁

ここでのポイントは、判断の基準が「名付けた本人の意図」ではなく、取引者や需要者がどう受け取るかであるということです。自分ではブランド名のつもりでも、消費者の目に「商品説明」と映れば、識別力がないと判断されやすくなります。

ちなみに、特許庁の統計によると、2024年の商標審査における登録査定率は88.4%です。

「2024年の商標審査における登録査定率は88.4%であり、前年から増加しました。」

出典:特許庁「特許行政年次報告書2025年版をとりまとめました」(特許庁

約10件に1件以上が登録査定に至っていない計算になります。拒絶理由にはさまざまなものがありますが、識別力の有無はその重要な論点のひとつです。


「登録できても、説明的な使用までは止めにくい」もうひとつの仕組み

「じゃあ出願してみて、通ればOKでしょ?」と思われるかもしれません。ここにもうひとつ、知っておいていただきたい仕組みがあります。

商標法には、品質表示として普通に使われている言葉に対しては、たとえ商標登録されていても商標権の効力が及ばない場合があるというルールがあります。

「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(中略)を普通に用いられる方法で表示する商標」

出典:商標法第26条第1項第2号・第3号(e-Gov法令検索

つまり、仮に「モイストセラム」が何らかの事情で商標登録されたとしても、競合他社が自社の美容液のパッケージに「モイスト処方のセラム」と説明的に記載した場合、その使用が商品の特徴を説明する範囲にとどまるなら、商標権で差し止めにくいことがあります。

だからこそ、ステップ2で品質表示的な言葉から距離を置いた造語をつくることが大切なのです。IPSAやSUQQUやDECORTÉのような名前は、少なくとも他社が通常の商品説明として使う言葉とは性質が異なります。造語だからこそ、その名前を使う人=そのブランド、という結びつきが生まれやすくなるのです。


まとめ

ブランド名は、「素敵な響き」と「法的に守りやすい力」の両方があって初めて、事業の資産になります。

成分や効能をそのまま並べた名前は、商標として登録されにくいうえに、登録できたとしても他者の説明的使用を止めにくい可能性があります。一方、IPSAやSUQQU、DECORTÉのような造語を軸にしたネーミングは、ブランドの世界観を伝えながら、法的にも守りやすい名前になりやすい。

まずひとつ、今考えているブランド名の候補をJ-PlatPatで検索してみてください。それが、ブランドを守る最初の一歩です。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の商標登録可能性や侵害判断を保証するものではありません。具体的な判断が必要な場合は、弁理士等の専門家にご相談ください。


出典一覧

  • 商標法(昭和34年法律第127号)第3条第1項第3号、第4条第1項第11号、第26条第1項第2号・第3号──e-Gov法令検索
  • 特許庁「商標審査基準」第3条第1項第3号──特許庁
  • 特許庁「特許行政年次報告書2025年版をとりまとめました」──特許庁
  • 厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年7月21日 薬食発0721第1号)──厚生労働省
  • IPSA公式サイト「ABOUT IPSA」──IPSA
  • SUQQU公式サイト「ABOUT SUQQU」──SUQQU
  • SUQQU公式サイト「もういちどはじめまして #03 しるし」──SUQQU
  • コスメデコルテ公式サイト「Our story ABOUT THE BRAND NAME」──コスメデコルテ
  • ETVOS公式サイト「ETVOSについて」──ETVOS
  • 花王公式Q&A「SOFINA iP のブランド名の由来や意味」──花王
  • 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)──J-PlatPat
  • INPIT知財総合支援窓口──INPIT
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